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2025年7月1日火曜日

野本ら「元素はいかにつくられたか 超新星爆発と宇宙の化学進化」を眺め終えた

野本憲一編「元素はいかにつくられたか 超新星爆発と宇宙の化学進化」2007年、岩波書店
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岩波講座、物理の世界の一冊の小冊子である。編者は世界的に有名な天文学者である。野本氏の解説が読めると手にとって見みたが、野本氏は1章と9章の一部を執筆したに過ぎず、実際の執筆は大学院生とポスドクによる。そのため、私は詐欺にあったようだと感じた。

執筆者の担当部分を記す。
野本憲一(1章と9章)、前田啓一(2章)、富永望(3章)、大久保琢也(4章)、田中雅臣(5章と6章と9章)、和南城伸也(1章と7章)、小林千晶(8章)。おそらく執筆者は野本氏の弟子か共同研究者なのであろう。

星の内部で作られる元素についての本である。ビッグバンでの元素合成はほとんど触れられていない。専門的な内容が、各章ごとにコンパクトにまとまっているが、著者がたくさんいるために、話題の流れはちぐはぐしていて非常に読みにくい。著者ごとに書きぶりが全然違うので、担当範囲とに別の本だと強く意識しないと非常に混乱すると思う。大学3年生から大学院生が読むとよい本である。また、あまりにも執筆当時の最新の研究のことを書きすぎていて、多くの部分が古くなっていると思う。このような小冊子も一人の天文学者が時間をかけて書くこともできないほど、日本の天文学の人的資源が乏しいのだと思うと心が痛む。



2025年6月29日日曜日

福江「輝くブラックホール降着円盤」を眺め終えた

福江純「輝くブラックホール降着円盤」プレアデス出版、 2007年
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福江純氏は理論の天文学者であり、ブラックホールの降着円盤の見た目をプロットした論文で知られている。本書は理論の天文学の専門家が書いた降着円盤の本である。記述は簡易である。

私にはこの本がどれだけ有用なものなのかはよく分からない。これから天文学に詳しくなるにつれて、本書の有用さが判断できるようになるのだろうか。

天文学者の専門書や一般書の一般相対論やブラックホールの記述は必ず看過できない間違いが含まれているので気つけないといけない。本書も例外ではない。


2025年6月18日水曜日

ピーターソン「活動銀河核」を眺め終えた

ブラッドリー・M. ピーターソン著、和田桂一、谷口義明、粟木久光、亀野誠二、寺島雄一、長尾透 訳「活動銀河核」丸善出版、2010年
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原著は1997年出版の「An Introduction to Active Galactic Nuclei」である。活動銀河核の観測の天文学者であるピーターソンによる大学院生向けの活動銀河核の教科書。観測の専門家らしい視点で活動銀河核について基礎的なことから分かりやすく書かれている。和書としては、このテーマで本書に対抗できそうな本は思い当たらないので、訳者はいい仕事をしたと思う。もちろん、このレベルになると英語の専門書やレビュー論文を読むべきなのかもしれないというのも正論であるとも思う。

2025年4月17日木曜日

佐藤ルフィーニ「ブラックホール」を眺め終えた

佐藤文隆、R.ルフィーニ「ブラックホール」2009年、筑摩書房
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ちくま学芸文庫の一冊。文庫版あとがきが付いている。歴史的な流れに沿って、コペルニクスから始まり、ニュートン力学、特殊相対論、一般相対論、恒星や白色矮星、中性子星、ブラックホールなどを説明していく。後半は天体物理学と一般相対論が半々という感じである。もともとは1976年に中央公論社から出版されたものなので、読み進めていき、最近の研究の話題に近づくほど内容が古く感じられることに注意が必要である。

ルフィーニ氏の歴史的導入を含む一般教養的な集中講義のレジュメを構成の第ゼロ近似とし、佐藤氏の大学院生向けの集中講義を下敷きにして作られたとのこと。一般書としても専門書としても中途半端なものになってしまったというあとがきの佐藤氏のコメントが本書の構成の特徴をよくとらえていると思う。また、ルフィーニ氏はホイーラー氏の元で研究していたので、本書の内容と図表はホイーラー氏のグループのリソースを引き継いでいるとのことである。

富松佐藤解についての詳しい説明など佐藤氏らしい記述とキップ・ソーン氏の一般書などでお馴染みのホイーラーのグループの一般書らしい内容が一冊の本でみられるという珍しい本であると思う。

本書の数式を追うには一般相対論を教科書でやっていないと厳しいだろうから大学4年生が読むのに適していると思う。


2025年2月19日水曜日

Boselli「多波長銀河物理学」を眺め終えた

Alessandro Boselli著、竹内努 訳「多波長銀河物理学」共立出版、2017年
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原書はフランス語で書かれ、原著は英訳され「A Panchromatic View of Galaxies」となり、日本語訳は英訳を元にしている。
訳者の竹内氏は原著者の所属先のマルセイユ天体物理学研究所で博士研究員としたことがあり、原著者との共同研究もある。

前書きにあるように本書の目的は多波長での銀河の観測に関わった著者の経験を伝授することである。
本書は個別のテーマと暑かった専門書にとって代わるものではなく、それらとともに本書が併用して使われることを著者は望んでいる。
訳者のあとがきによると、本書の著者の専門の低エネルギーの波長の観測と近傍銀河に偏っているそうだ。
フランス語版の出版は1993年、翻訳の元となった英語版は2012年の出版である。
観測装置の改良により新しい成果であふれている高赤方偏移の銀河の観測の話題は少ない。
しかし、高赤方偏移の銀河との比較のためにも、まず近傍銀河を理解しておくべきだという著者と訳者の考えはもっともである。

和書のタイトルには物理学と書かれているが、本書はまぎれもなく天文学の専門書である。
私は天文学を専門的な教育を総合的に受けたわけではないので、本書をどのように読むべきかはよく分からない。
天文学系の卒研や大学院の研究室に配属された後に読む本であろう。

2024年12月3日火曜日

ホーキング・エリス「時空の大域的構造」を眺め終えた

スティーヴン・W・ホーキング、ジョージ・F・R・エリス「時空の大域的構造」2019年、プレアデス出版
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原書は1973年出版のThe Large Scale Structure of Space-Timeである。
二人いる著者の貢献度は分からないが、著者の順番はアルファベット順ではないので、(論文ごとに著者の順番の意味付けは異なるし、本と論文の著者の記載の文化は異なるかもしれないので、あまりあてにならないかもしれないが)Hawking氏の貢献の方がEllis氏よりも大きいと読める。ホーキング氏とエリス氏はともにシアマ(Sciama)氏の弟子である。前書きには本書の一部はHawking氏のアダムス賞の対象となった小論文に基づいていること、アイデアの多くはペンローズ氏とジェロッチ(Geroch)氏によるものであり、彼らのレビュー論文を参照しているとも書いてある。なので、本書を正しく評価するにはそれらのレビュー論文やそこで引用されているであろう大量の原論文を読み込む必要があろう。そのような地道な研究を科学史の専門家に期待する。ちなみにアダムス賞のウェブサイトには1966年の受賞者はPenrose氏で追加受賞者はHawking氏とNarlikar氏と書いてあり、Penrose氏は2020年にノーベル物理学賞を受けたことでも有名である。一般相対論の入門書では原書は専門書として勧められていることが多い。本書は数理的な傾向が非常に強い。しかし、数理的な話題で閉じているわけではなく、それらを物理現象と結び付けて興味深い結果を手繰り寄せる力強さを感じる。

1950年代にイギリスでは定常宇宙論で有名なフレッド・ホイルが連続ラジオ講演で一般に知られており、ホーキングとペンローズにも一般相対論の研究者となるきっかけをあたえた。学生の時に純粋数学のトレーニングを受けていたペンローズはホイルの宇宙論に興味持ったことでシアマと交流を持った。シアマに物理学へと引き込まれたペンローズは物理学に役立つと思われていなかったトポロジーを物理学に導入することで全く新しい分野を切り開いた。その後、ペンローズやジェロッチやシアマの弟子であるホーキングやエリスらが整備していったものが時空の大域的構造と呼ばれるものであり、本書で書かれていることである。1章はイントロダクション、2章は一般相対論で使う微分幾何、3章は一般相対論のラグランジアンや場の方程式、4章は測地線やエネルギー条件、5章は厳密解、6章は因果構造、7章はコーシー問題、8章は特異点定理、9章は重力崩壊とブラックホール、10章は宇宙の初期特異点について触れられている。

訳者は富岡竜太、鵜沼豊、クストディオ・D・ヤンカルロス・Jである。訳者のことは詳しく知らないし、各訳者がどのように作業をしたのかも分からない。ところどころ訳者の中途半端な知識に基づいた訳者注が入っている。ホーキングとエリスが書いた文章と読み手である私の間に訳者が存在することも私は気に入らない。自明なtyposも散見される。しかし、ざっと眺める分には英語よりも日本語の方が精神的なハードルが低いという読者もいるだろうから本書の役割がないわけではないと思う。

一般相対論の専門家のための本であるので、この方向に進む大学院生が読む本であろう。

2024年11月28日木曜日

安藤ら「相対論と宇宙の事典」を眺め終えた

安藤正樹、白水徹也(編集幹事)「相対論と宇宙の事典」朝倉書店、2020年
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74人の著者による。相対論と宇宙の事典。
一般相対論の入門書によく出てくる話題+高エネルギー天体物理学の話題といった内容。時代を感じさせることになるものがかなり含まれており、最近初観測されたものや流行りのある修正重力や量子重力などは10年もすると時代錯誤な本になるだろう。かなり前に研究から引退している著者もそれなりにいるようで、出版時にすでに古いと感じるものもかなり含まれている。著者ごとに難易度が全然違うので、著者の名前を見てどのような研究をしている人か知っていたり、読む前にすべての内容を一通りかじったことがないと読者にとって非常にフラストレーションがたまる本だと思う。本書の企画に対して、著者の考えが統一されていない気がする。入門書レベルを超えた、目からうろこが落ちた内容(例えば、ヌル的無限遠方での質量と空間的無限遠方での質量の違い)もあったので、楽しみ方は読者ごとにあると思う。

2024年11月22日金曜日

沙川「非平衡統計力学」を眺め終えた

沙川貴大「非平衡統計力学」共立出版、2022年
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情報熱力学という分野を切り開いた沙川氏によるゆらぎの熱力学、情報熱力学の解説。
大学4年生から読める難易度であると思われる。

2024年11月19日火曜日

古澤武田「新版 量子光学と量子情報科学」を眺め終えた

古澤明、武田俊太郎「新版 量子光学と量子情報科学」サイエンス社、2020年
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初版は2005年。
量子力学の本は素粒子の応用を意識している場合が多いが、
この本を読むと量子光学という面白い分野への応用もあるのだなあと分かる。
良い本であると思う。

2024年11月17日日曜日

レンスター「ベーシック圏論」を眺め終えた

T. レンスター (著), 斎藤 恭司 (監修), 土岡 俊介(訳)「ベーシック圏論」2017年、丸善出版
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原書は2014年。圏論の入門書。
私は数学に詳しくないので、コメントはしない。

2024年11月13日水曜日

渡辺「量子多体系の対称性とトポロジー」を眺め終えた

渡辺悠樹「量子多体系の対称性とトポロジー」サイエンス社、2022年
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渡辺悠樹氏は2015年にカリフォルニア大学バークレー校で博士号をとった若手の物理学者であり、
現在は東京大学の准教授である。
著者略歴によると専門は物性理論とあるが
素粒子物理学と物性理論の両方から学び
素粒子物理の研究者とも共同研究を行うという
ユニークなスタイルと視点に基いた
スマッシュヒットした研究を行っているようで、受賞も多い。

対称性から量子多体系の様々なモデルを統一的に理解したいという
著者のユニークな野望が本書を貫いている。
本書の価値がどうなるのかは、今後の物性理論のどのように発展するかにかかっていると思う。

私は物性物理のことをほとんど何も知らないために、細かいことは分からなかったが
本書で紹介される様々な具体的なモデルを知ることは単純に面白かった。

2024年11月11日月曜日

西野「テンソルネットワークの基礎と応用」を眺め終えた

西野友年「テンソルネットワークの基礎と応用」サイエンス社、2021年
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テンソルネットワークという物理の多くの分野で使われている手法について
解説している大学院生や研究者向けの本である。
物理の本というより物理数学の本である。

2024年11月8日金曜日

市川田中「天体画像の誤差と統計解析」を眺め終えた

市川隆、田中幹人「天体画像の誤差と統計解析」共立出版、2018年
を眺め終えた。
1章から5章は天文学で学ぶ統計解析という内容。
最後の6章は天体画像の誤差に関することで天文学に興味がある人はとても楽しめると思う。
また各章の終わりにあるコラムも天文学が好きな人は楽しめると思う。
全体としてユニークな本であり、天文学に興味がある人は持っていて良い本だと思う。

2024年11月6日水曜日

枝松「単一光子と量子もつれ光子」を眺め終えた

枝松圭一「単一光子と量子もつれ光子」共立出版(2018年)
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量子力学の復習からはじめて単一光子と量子もつれ光子について解説した本。
量子力学の入門を終えた大学3年生か4年生から読める本。
実験のことが多く書かれているのが特徴である。
理論の人には非常にとっつきにくい印象であるが
この分野の専門家になるのならば、理論の人も一応読んでおくべきなのだろう。

2024年8月9日金曜日

高橋上地「マンガでわかるベイズ統計学」を眺め終えた

高橋信 著、上地優歩 作画、ウェルテ 制作「マンガでわかるベイズ統計学」オーム社, 2017年
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タイトル通りの内容で、タイトル通りのスタイルで表現されている。
眺めただけだったが、初めて触れる内容なので、全く分からなかった。
現在の私は本書にコメントする資格はないと思うので、特にコメントはない。

2024年8月8日木曜日

清水「熱力学の基礎 第二版 II」を眺め終えた

清水明「熱力学の基礎 第二版 II」東京大学出版会、2021年
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東京大学教養学部一年生の講義のノートをもとにした熱力学の教科書である。初版は2007年であったが、第二版は2冊に分かれた。一般的なことが書かれており、熱力学の初学者には難しい。また、本書には章末の演習問題は一切なく、本書にはこの本の内容を消化する前に演習問題に取り組むべきではないと主張している。この教科書は読んで理解できた気になっても具体的な問題が出されると解けずに何も理解できていないことを悟る学生を大量生産するであろう。

読者が東京大学かそれと同程度の大学の学生であるか、または、物理というより数理物理的な興味を持ち、あまり具体例に興味がない学生には一冊目の熱力学の教科書としていい本かもしれない。普通の物理系の学生には熱力学の3冊目くらいの教科書としてちょうどいいであろう。

2024年8月1日木曜日

松原「大規模構造の宇宙論」を眺め終えた

松原隆彦「大規模構造の宇宙論」共立出版、2014年
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本書は序盤は宇宙論の初歩的な内容を説明しているが、
中盤から難しくなるタイプの専門書である。
後半は著者の松原氏が提唱したという統合摂動論を紹介している。

宇宙論を勉強したことがある学生ならば、前半はちょうどいいレベルであろう。
後半は松原氏の研究を理解したい専門家と専門家になりたい人が読めるレベルである。

2024年7月30日火曜日

小嶌小出高橋「ブラックホール宇宙物理の基礎」を眺め終えた

小嶌康史、小出眞路、高橋労太「ブラックホール宇宙物理の基礎」日本評論社、2019年
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一般相対論を使ったブラックホールとその周辺についての基礎的なことをまとめた教科書。
重力波のことはほぼ書いていない。イベントホライズンテレスコープの観測結果が出る直前に出版されたので、この本には書かれていない。

この分野に参入したい学生が読むような教科書で、一般相対論に入門しておく必要がある。
このレベルの教科書にしては珍しく、本文中に例題がたくさんあったり、各章に演習問題がちゃんとあるので読者はかなり長い時間をかけてこの本と戦うことになる。多くの内容はこの本以外では(少なくとも邦書としては)本としてはまとまっていないと思われるので、この分野に詳しくなるには、この本を読むか、原著論文を読むしかかないと思われる。

内容はこの分野の理論研究の最前線という感じであり、この分野の研究者のコンセンサスがなんとなくわかるところは原著論文にはない良さだと思う。

2024年7月25日木曜日

河合浅野「ガンマ線バースト」を眺め終えた

河合誠之、浅野勝晃「ガンマ線バースト」日本評論社、2019年
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ガンマ線バーストの理論と観測をまとめた本。
ガンマ線バーストの面白さと難しさが良くまとまっているとても良い本。

2024年7月22日月曜日

前田田辺「演習形式で学ぶ特殊相対性理論」を眺め終えた

前田恵一、田辺誠「演習形式で学ぶ特殊相対性理論」2022年、サイエンス社
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特殊相対論をだいたい理解している人が
手を動かして問題を解くことで、より深く理解するために良い本。
将来、特殊相対論や一般相対論を使った研究者になる人や既に研究している人が主な読者だと思われる。