戸谷友則「宇宙の「果て」になにがあるのか 最新天文学が描く、時間と空間の終わり」2018年、講談社
を読んだ。
ブルーバックスである。1~5章と9章は90年代の専門家による宇宙論の一般書を劣化させたような内容である。これは著者の専門分野ではないため、この30年間の進展の詳細は書かれておらず、著者が宇宙論に非常に否定的であることがわかる。特殊相対論、一般相対論、宇宙論、科学史に関しては著者に意図を問いただしたくなる記述が散見される。例えば本書ではガモフの名は出てくるが、アルファーの名は出てこない。いちいち出てくるたとえ話は昭和的で、令和では完全にアウトである。引き合いに出されるアニメやSF作品も昭和である。著者は昭和40年代生まれか50年代生まれを読者として想定しているのだろうか。戸谷氏は宇宙論の一般書を書くべき人物としてふさわしくなかったと思う。
6~8章は星や銀河の基本的なことと最近の流行であるマルチメッセンジャーや遠方銀河などの天文学の話題が著者の研究を含めて書かれており、こちらは著者の専門分野と近いためか良心的な記述であり、戸谷氏が著者としてふさわしいことに異論はない。一部の研究の話題はすでに古くなってしまっているので、研究の進展の激しさが感じられる。
総じて、宇宙論の一般書マニアは失望するかもしれないし、昭和すぎる記述に寛容な聖人のような読者または著者と同程度に野蛮な読者にとって、それほど悪くない本だと思う。