田中信夫「走査透過電子顕微鏡の物理」共立出版、2018年
を眺め終えた。
著者の田中氏は物理の専門家ではなく顕微鏡の専門家らしい。
この本では顕微鏡がメインディッシュで、物理は添え物である。
かなり工学っぽい雰囲気がする。
実験物理の人が書いた物理の教科書のように
理論物理の人にとっては、辛い。
「~です。~ます。」で書かれている。
物理の本ではほとんど見たことがないので、
やりは、物理の本ではないのであろう。
田中氏は名古屋大学の応用物理学科出身らしい。
私は高校生の時に大学では物理や天文がやりたくて、
入学後に工学っぽいことを勉強させられるのを極度に恐れ、
工学っぽいことをさせられない大学を選んで入試を受けていたので、
私は応用物理学という学科を良く知らない。
(高校生の時は理工学部の工の字にも怯えていた。
結局、理学部しかない大学の物理学科に入った。)
とりあえず、名古屋大学の応用物理学科のウェブサイトを眺めてみたが
嗅いだことのない匂いを感じた。謎の集団である。
私が20年間、様々な大学の物理学科のウェブサイトばかり眺めていて、
応用物理学科のウェブサイトなど眺めたことなどなかったに違いないと思いいたった。
この本のまえがきには高校物理の物理を仮定し、
大学一年生でも理解できると書いてあるが、
マクスウェル方程式もシュレディンガー方程式も当たり前のように出てくるし
特殊相対論も普通に出てくる。
読んでいると10ページくらいで
「こ、これが、応用物理学科のやり方か。ぐふっ。」
という感想を持つ。
理論物理の人には読めない。
この本を読んでも計算はできるようにならないが、
定番の物理のどの本を読めばいいかは書いてある。
言い換えると、
この本は「走査透過電子顕微鏡の物理」というタイトルがついているが
物理の説明は他の物理の本に丸投げしている。
また、参考図書には田中氏の著作がかなり派手に宣伝されている。
これで
「これが応用物理学科のやり方か。ぐはっ。」
という感想を持ちながら、力尽きる。
物理学科の人で、顕微鏡に興味ある人は、
大学3年の量子力学の前半
(シュレディンガー方程式の簡単な解き方を学んだ当たりまで)
を終えたら、この本を読むとちょうどいいと思う。
著者の顕微鏡の知識はなかなかのものなので、
難しいことは読み飛ばして、
読めるところだけ
つまんで読むと十分に面白い。