長谷川修司「見えないものをみる ナノワールドと量子力学」2008年、東京大学出版会
を眺め終えた。
とても良い本である。(私は物性物理の全体像を全然把握できていないが、)本書に書かれている内容は表面物理やナノ物理と言われる分野らしい。基礎物理の理解を目的とした実験物理学者が書いた本である。当時の最新の研究と基礎が、主に言葉や図で説明されている。
本書を読んでも計算は出来るようにならない。しかし、理論物理の人も寝っ転がって読む分には、自分の研究や勉強の邪魔にならないと思うので、純粋な楽しみのために読んでもいいと思う。理論の人も楽しめるだろう。
この本は量子力学入門を終えた大学4年生が読む本である。(一流の大学では、意欲ある一年生が並の大学の3年生レベルの量子力学の講義が選択できるようになっているらしいので、量子力学の入門レベルを終えている人はもっと早く読めばよいと思う。)この手の本は、研究と3年生までで学んだことのギャップが大きくて4年生が実際に読むにはかなり苦しいが、この本はギャップが少なく、読みやすい。はじめとおわりに量子力学に関する物理実験をする3年生との対話が書かれている。おそらく著者はこの本を東大物理学科の3年生のために書いたに違いない。
著者の長谷川氏は量子力学の実験で有名な外村彰氏の実験グループに所属していたこともある。外村氏の量子力学の本が好きな人は、この本も気に入ると思う。長谷川氏と言えば、この本やトポロジカル物性に関するブルーバックスの著者として私は認識していた。最近では、物理学会の偉い人というイメージが新たに付きつつある。