佐藤文隆,小玉英雄「一般相対性理論」2000年、岩波書店
を眺め終えた。
本書は1992年に出版された同名の現代の物理学シリーズの一冊に修正と補章を追記したものを現代物理学叢書として出版したものである。佐藤氏は普通の物理の本のスタイルで小玉氏は数理物理のスタイルで書くので一冊の本としてまとめらえると、著者の趣味を何も知らない読者にはかなりつらい。全体を通して読むとすぐに気が付くことだか、一章だけが物理スタイルでとそれ以降の章は数理物理スタイルなのである。
佐藤氏が一章を書き、それ以外の章を小玉氏が書いたに違いないと感じていたが、やはりそうであった。詳しくは2023 年 8 月の天文月報を見よ。佐藤氏が小玉氏に書くことのリストを渡し、小玉氏はそれに従ったり、従わなかったりして本書を書いたとのことである。
何も知らない読者はその境目のギャップで沈没すると思う。複数名による著作の悪いところが明確に出ている。ただし本書のこの悪い点は、一章は佐藤氏が書いて、残りのすべての章を小玉氏が書いたと知っていれば、100%回避できる。1章は文頭にあるエッセイだと思って無視し、2章からこの本が始まると思って読むことが読み通すための最大のコツだと思う。
2章からは一般相対論で使う数学の定義が述べられ、様々な定理が証明される。2章は多様体、3章は時空の対称性、4章は一様な宇宙、5章はブラックホール解、6章は正準理論とBianchi宇宙、7章はKaluza-Klein理論、Ashtekhar理論、重力の量子論について述べられている。特異点定理などの大域的トポロジーのことは補章で少し書かれているだけで、本文中には書かれていない。
本書の良いところは一般相対論で使われる数学がコンパクトにまとめられ、それがどのように役立てられているのかを学べるところであろう。一般相対論の本などで数学的すぎて精読ができなかった箇所で使われている数学の確認にも使える。様々なペンローズダイアグラムも見ていて楽しい。
一般相対論を宇宙や天体に使いたい人向きの本ではない。数学を一般相対論に応用することに興味があり、一般相対論の専門的なことを本格的に学んでいる人が本書の内容に特に興味があれば細部まで読むと良いという感じの本である。数学的な道具を準備している箇所や基本的な公式を証明している所はもっと広い読者の層にも役に立つと思う。