小玉英雄「相対性理論」 (培風館,1997年)
を眺め終えた。
本書は特殊相対論と一般相対論の本格的な教科書である。最初の6章は特殊相対論、後半の4章は一般相対論について記述している。全体的な数学的なレベルはWaldのGeneral Relativityと同じ程度、つまり大学院初年度レベルという印象を感じる。特殊相対論の記述も数学のレベルが高いために特殊相対論でこんなに数学を導入する必要があるのかと訝しく思ったが、後半の一般相対論の箇所を読んでいると、「すでに特殊相対論のところで説明したように」という説明に出会い、前半で撒ける布石を見逃さずに撒いているスタイルで書かれているのだと分かる。そのため、後半の一般相対論のところだけ読もうとするとそれらの事柄を習得済みでなければ苦労し、最初から読まないといけないことを悟ると思う。前半の150ページある特殊相対論も数学的準備だけというわけでなく、コンプトン散乱やシンクロトロン輻射などの応用例も丁寧に書かれている。後半の150ページの一般相対論の部分も追加の数学的な道具の説明がコンパクトに詰め込まれ、応用例も豊富である。ブラックホールではKerrブラックホールのペンローズ図、面積増大定理、一意性定理などにも触れ、重力崩壊、重力波についても記述があるし、宇宙論ではインフレーション、非等方性、非一様性にも触れている。全体を眺めた後の感想としては、物理の本としては驚異的に内容を詰め込んでおり、見事であるとも感じる。なお、朝倉書店から同じ著者の同じタイトルの本が出版されているがそれとは別の本である。
相対論を数理的に扱う専門家を志す学生は、別の入門書で一般教養としての一般相対論を学んだあとに、一般相対論の数理物理傾向強めの2冊目の入門書として本書を選こともできるという感じの本である。