C. W. Misner, K. S. Thorne, J. A. Wheeler 著, 若野省己 訳「重力理論」2011年、丸善出版
を眺め終えた。1973年に出版されたMTW、Telephotone bookなどの愛称で有名なGravitationの和訳。訳者の若野さんはWheelerの指導の下でPhDを取った弟子であり、Wheelerらとの共著の論文や専門書も知られている。
原書の英語にかなりの癖があるが、本書の和訳は癖のある英語が日本語になって読みやすくなっている箇所もあるが、不自然な直訳で読みにくい箇所も多いし、和訳を頭の中で英語に直して意味を取り直す必要な場合も多い。また、原書では横にあった見出しとしての脚注はすべてページの下に移動させられ、ほとんど意味を失った。また原書のページの上の角についていた初学者向けページを示す「黒塗り1」とそれ以外の「白塗り2」は無くなった。分冊にしなかったことは非常に好印象ではあるものの、原書の魅力は半減していると思う。
物理的な内容自体は原書と変わらない。スタンダードな物理学スタイルであり、現在のスタンダードな入門書と大体同じテーマを扱っている。この本は辞書とも呼ばれ、記述は網羅的であり、最近の本には見当たらない話題も多く含まれている。しかし、実際の辞書とは違い、記述は非常に冗長である。初学者向けと中級者以上向けのページがあるが、中級者向けのページではもっと詳しく知りたければ1973年よりも前の文献(本や論文)を見ろといわれることが多い。私は学生だったときに、この本の原書を眺めていることが多かったが、私がいた小さな物理系学科しか持たない日本の大学の図書館には読めといわれる1960年代以前の洋書がないことも多かった。私にとって、その点で私はこの本を生かし切れなかった。しかし、最近は洋書の教科書がopensourceになっていてinternetで簡単に読める場合も多いので、そのような環境で勉強していた人にとっては、現在の方が本書の価値は高いと思う。60年代の洋書の専門書を参照せよと言われて、すぐに参照できる現在の環境は私が学生だったときには考えられないことだった。
初学者向けのページを選びながら大学3年生から読み始めることができると思う。個人的な好みにすぎないが、かなり辛い直訳の日本語訳よりも癖のある英語の方がましな気がするし、原書にしかない工夫もたくさんあるので、原著を読んだ方が良いと思う。もちろん、翻訳者もかなりの苦労と眺めただけの私には見えない工夫をしているかもしれないので、私にはひどく貶すことはできない。