ウォルター・ルーウィン著 東江一紀訳「これが物理学だ!マサチューセッツ工科大学「感動」講義」2012年、文藝春秋
を読んだ。
ウォルター・ルーウィンの本の翻訳本。注意深く読むと翻訳者がでっちあげたであろう専門用語もどきをいくつか発見することができる。出版社と訳者が商業主義に毒されて、翻訳を急いだのだろうが、専門家のチェックを受けるべきだったと思う。
この翻訳本には他にも商売っ気を感じる。まず、原題は"For the Love of Physics: From the End of the Rainbow to the Edge Of Time - A Journey Through the Wonders of Physics"であり、全くニュアンスが異なる。また、原書の著者はWalter Lewin with Warren Goldsteinとなっているが、翻訳本の著者ではWarren Goldsteinの名は削除されている。そのため、読んでいると全く理解できないページが複数ある。Warren Goldsteinとは何者なのか。どうやら、本書を書くサポートをしたらしいが、具体的にどのようなサポートをしたのかよくわからなかった。
さらに、なぜ翻訳版では著者からWarren Goldsteinの名が削除されたのか。謎である。翻訳者は本書ができた経緯を補足すべきであった。そうすれば、すべての読者は翻訳者に感謝したことであろう。
日本語版の出版社は物理の入門講義の本だと錯覚させるタイトルを付けたが、最初の2/3がルーウィンの個人的な自伝もしくは伝記と高校物理レベルの入門講義であり、終わりの1/3はルーウィンの専門であるX線天文学にまつわる思い出である。本書の内容はまとまりがなく、本書の評価は非常に難しい。X線天文学の歴史に興味がある読者は最初の自伝または伝記部分と最後の1/3は楽しめるだろう。何も知らない高校生は本書全体を楽しめるかもしれない。大学生は入門講義部分は退屈だと感じる人とルーウィンの授業の工夫に興味を覚える人もいるかもしれない。数式を使わない高校物理や大学生必修科目レベルの縦書きの物理の一般書には独特の分かりにくさがあるので、そこにストレスを感じるかもしれない。手放しで絶賛はできないが、読むべき内容は確かにあるという本である。