羽田野直道・井村健一郎「非エルミート量子力学」講談社、2023年
を眺め終えた。
羽田野氏は第14回久保亮五記念賞受賞者でもあり、非エルミート量子力学の先駆的な研究者として著名である。ごく最近、非エルミート量子力学に関する研究が国内でも流行っているということは知っているが、本書は話題の流行に関するものではなく、羽田野氏や他の研究者によって研究された流行前の非エルミート量子力学の入門書である。井村氏は5.5節と最後の6章が担当し、それ以外は羽田野氏が担当し、文責は羽田野氏にあるとのことだ。
本書の10ページのさわりを知りたければ、「羽田野 非エルミート量子力学」で検索すると
羽田野氏の物性若手夏の学校テキスト
が見つかるだろう。最近の非エルミート量子力学の研究について知りたければ、「開放系 非エルミート量子力学」で検索すると最近の博士論文が手に入るはずなのでそれを読むと良いかもしれない。すぐに見つかるので、本当に流行っていることが実感できる。
本書は非常に丁寧に書かれている。羽田野氏は非エルミート量子力学の研究が受け入れられずに苦労されたようで、批判に対する答えや研究の動機付けに多くが割かれている。心理的な抵抗なく開放系の量子力学を研究を始める若い人もいると思うので、そういう意味では本書の雰囲気は年寄り臭く、最新の研究とはギャップがあるかもしれない。(最後の6章でギャップを埋めようと努力していることは分かる。)Mathematicaでの複素固有値の数値計算の方法など実践的なテクニックも扱っている。
通常の量子力学を学んだ直後から本書は役立つと思う。本書の内容と通常の量子力学と対比することで、通常の量子力学のことも深く理解できるようになると思うので、4年生から読み始めると学ぶこととが大いにあると思う。しかし、4年生では理解できないことも多い。特に6章を理解するには、かなりの予備知識が必要である。