2025年6月15日日曜日

藤原正彦「管見妄語 とんでもない奴」を読んだ

藤原正彦「管見妄語 とんでもない奴」、2014年、新潮社
を読んだ。

週刊新潮で連載された数学者である藤原正彦氏によるエッセイ集。数学や数学者の話はあまりない。時代錯誤な考えが満載な記述もところどころあるけれども、正真正銘のご老人によるエッセイなので、あまり気にしないようにして楽しむと良いだろう。私のお気に入りとしては、藤原家とゆかりのある人たちについて書かれている「偶然の紡いだ人の鎖」を挙げておく。ちなみに、藤原正彦氏の父親は大河ドラマ武田信玄の原作小説を書き、直木賞作家でもあるの小説家の新田次郎氏である。新田次郎氏の本名は藤原寛人であり、本職は中央気象台(現在の気象庁)に勤めた気象学者である。母親は作家として知られる藤原ていである。大叔父には気象学者の藤原咲平氏がいる。ちなみに当時は気象学や地球物理学は物理学の一部とみなされていたため、藤原咲平氏は理論物理学科出身である。従伯父に実業家の牛山清人、従伯父の妻にメイ牛山がいる。藤原正彦氏の妻は心理学者・エッセイストの藤原美子氏である。12歳年下のお茶の水大学の学生だった美子氏に教員だった藤原正彦氏が一目ぼれしたとのこと。藤原美子氏の父親は化学者の田丸謙二氏、姉は化学者の大山秀子氏、姉の夫は化学者の大山茂生氏、祖父は化学者の田丸節郎氏、大伯父は物理学者の田丸卓郎氏となっている。藤原咲平氏は田丸卓郎氏から指導を受けたこともある。これだけ人脈があるのだから、藤原氏が誰と知り合いでも驚くには値しないと私は思う。藤原氏が「偶然」と見做していることが腑に落ちない。どれだけ過去をたどってもそれらしい親族が出てきそうもない私のような凡人が学問を志すことは、武士の血を引く学者一族に生まれた人々と比べて、ハードモードすぎるとしみじみ感じられた。