2021年12月15日水曜日

古味直志「ニセコイ 25巻」を読んだ

古味直志「ニセコイ 25巻」2016年、集英社

を読んだ。

週刊少年ジャンプで連載されていたラブコメ漫画。内容に目新しいことはない。もっと言えば、一巻を読めば、誰でも結末を正確に言い当てることができる。しかし、少女漫画の愛読者と比べれば、週刊少年ジャンプの読者はラブコメを熱心には読まないだろうから、これくらいの陳腐さが心地よい。

この作品で目を引くのは何と言っても絵のうまさである。少ない線量で、漫画らしいタッチで、女の子はとてもかわいらしく書かれている。線量の少なさは激務で知られる週刊誌連載の工夫であろうが、作者のセンスが良いのか、作品全体を非常に読みやすくしてしている。特にメインヒロインは金髪で、ベタもトーンもなく、紙面上では白く透き通るような美しさである。あまりにも白過ぎるためか、べた塗された奇妙なリボンをワンポイントアイテムとして付けている。

単行本の表紙も良く書けている。普通の絵との違いから生じるカラー絵特有の違和感も古味氏のカラー絵からは感じられない。

単行本の作者コメントを順を追って読んでいくと、最初の方では、かわいい女の子を書くこともカラー絵も苦手であるとコメントがある。私は古味氏の絵とカラー絵をとても心地良いと感じているので、この作者コメントにある種の恐怖を感じた。しばらくすると、作者の苦手意識は解消されたとのコメントがあり、私は安堵した。

また、この作品からは、千葉県のYさんという英雄が誕生したことは特筆すべきことである。

この作品は結末ではなく、時間経過を楽しむ作品である。学生らは同じ学校で有限の時間を一緒に過ごす。きっと、作中の時期こそが彼らにとっての青春なのだろう。

25巻は最終巻である。この作品では時間の蓄積が重要であり、意味のある完結にはある程度の時間が必要である。それでも25巻は長すぎる。作品を間延びさせたエピソードを削って、20巻程度に収めるべきだったと思う。

作中で、10年前の約束や鍵と錠の話題が出てきて、正直どうでもいいなあ、この話題は削れないのかなと思いながら読んでいたが、終盤では、これらの話題が結末の輪郭をくっきりと鮮明にしたので、私は自分の無能さを恥ずかしく思うのと同時に作者の力量に感心した。