2021年12月5日日曜日

物理の研究者のキャリアパスのネットサーフィン

インターネットでよく見かける物理の研究者のキャリアパスの助言では、以下のように書かれていることが多い。(私は卒研が理論物理であったために、以下の話は理論の場合に限る。)


大学院で博士号を取る→国内、または海外の大学、研究所などで博士研究員として働く→場所を変えて博士研究員を2,3回やる→運が良ければ、大学などの教員に収まる。


私も上記のキャリアパスを信じていたが、物理の研究者のウェブサイトのネットサーフィンを長年していると、例外が多いことに気が付いた。


ネットサーフィンから得た情報をまとめると

「素粒子物理学、宇宙物理学で優秀で運がいい人は博士号取得後5、6年で任期がない職(助教や講師)になることが一つの目安となっている。」

「それ以外の物理の分野では、優秀な人は博士号取得後0~2年で任期がない職になることが一つの目安となっている。」

「素粒子物理学、宇宙物理学で、優秀でも運が普通な人は大学教員になる前に博士研究員として過ごす時期が異常に長い。」

「2022年現在、女性限定公募が多く出ており、素粒子物理学、宇宙物理学分野でも、博士号取得後0~2年で任期がない職になるケースが多数出てきている。」


少し詳細を書くと以下のようになる。

(い)素粒子物理学と宇宙物理学はマラソンで、それ以外の物理の分野は短距離走に例えることができる。短距離走が苦手で、マラソンでないと勝てない人もいるので、これはこれで良いんじゃないかと個人的に思う。しかし、20年(博士研究員10年+任期付き助教10年)耐久マラソンが普通になってくると日本の素粒子物理学と宇宙物理学に明るい未来はない。


(ろ)短距離走の場合は、大学院にいる間に大学教員椅子取りゲームのほぼ決着がつく。修士課程と博士課程の学生が増え、多くの学生が学位取得と共に就職することを除けば、昔とほとんど変わっていないように見える。


(は)ネットに書かれている先達によるキャリアパスの助言は、分野がちょっと変わると的外れなので、たとえ真実であっても、その適応範囲は非常に狭いことを肝に銘じておくべきである。


(に)インターネットで見かけるキャリアパスは素粒子理論と宇宙物理が多い。自分の分野の将来を憂いて、善意で書かれているのだと思うが、結果として、非常に強いバイアスを持つ情報をインターネットにさらしている。


(ほ)素粒子物理学や宇宙物理学と一言でいっても、かなりの広い分野を含んでいるため、さらに細分化され、状況はまちまち。


(へ)高校から物理を選択する時点で女性は少ない。物理系学科では、女性はさらに少なくなるため、学生時代は男性には分からない障害がたくさんあるかもしれない。でも物理が好きな女性よ、物理を諦めないで!任期のない職を見つけるのが難しいという情報は男性の場合である。最近は女性限定公募が増えたため、素粒子物理学や宇宙物理学でもポスドクや任期付き助教を経ずに(、または一回だけのポスドクを経て)任期なしの助教になるケースも多い!


(と)物理学科でも一般教養の学科でもなく、隣接分野の学科に着任する人がいる。例えば、数理的傾向が強めの物理の人が数学科に着任するケースがぼちぼちある。そうすると、その学生は数学科出身で数理的な傾向の強い物理を研究し、物理学会に所属するが、素粒子物理学や宇宙物理学のキャリアパスというよりも数学者のキャリアパスに従うことになる。数学者のキャリアパスはポスドクを0~1回経験して助教になるケースが多いようである。


興味ある分野が短距離走かマラソンか知りたい場合は、主要な大学や研究所の助教と准教授の経歴をできるだけ多く調べるとよい。助教や准教授が博士研究員をしていたか、していた場合はその期間は何年か、任期付きの助教を何度か経験していたか、などの経歴を調べるとよい。(着任が10年以上前の人の情報は古くて役に立たないと思った方が良い。)


結論を述べる。ネットでは、研究大学の良いポストを得たと自認した人が、彼らの言う、研究大学の良いポストをいかにして得るべきか、助言をしている。私はこれらの助言を娯楽としてよく読むが、読んだ後は必ず嘔吐したくなるような不快さを感じる。彼らが特殊な例を不当に一般化しているのを見て、平静を耐えられないからであろう。