小暮智一「現代天文学史」2015年、京都大学学術出版会
を読んだ。
本書では現代天文学を百名程度の天文学者の人生と研究を概観することで、現代天文学の発展を学ぶことができる。通常の天文学の歴史の本では扱う年代が本書よりも何倍も長いことが通常である。本書ではそこまで昔にはさかのぼらす、現在の天文学の研究に直接の萌芽から始めるので、天文学の勉強に役立つという意味で実践的であり、教育的である。非常に良い本だと思う。もし本書を大学生以前に読んでいれば、私は天文学者を志していたと思う。本書をこれまで読まなかったことを私は非常に残念に思っている。 著者は2025年5月22日に98歳で亡くなった。
本書は様々な角度から何度も私を粉砕した。
本書を読み、私は誰でもできるアマチュアの天文学の素朴な観測を行わず、何も知らないことを恥じ、むしろ何も知らないほうがかえって良いと考えていた自分の態度を恥じ、かつて天文少年や天文少女が知っていることを何も知らない宇宙物理や天文の理論の専門家の自己正当化する態度に自己の不勉強を正当化できる理由を見つけて安堵していた自分を心の底から恥じた。
私は天文学の職業的な研究現場のことについても詳しくないが、日本には世界に誇る素晴らしい成果も部分的にはあるが、日本の大学や天文台の全体を見ると最先端の研究機関としては足腰が弱いとは感じていた。その理由は私にはよくわからなかった。本書を読んで、日本は欧州に比べて現代的な天文学の歴史があまりにも薄いためであるとはっきりと分かった。また、技術や思想だけでなく研究者そのものが欧州から移動しつづけている米国は欧州の研究の歴史をうまく引き継いで発展させているが、日本は欧米の研究者の定着がなかったため、米国のようには速やかな発展はできるはずがないと分かった。日本が天文学の貧弱さを克服するためには、日本に住む人々が天文学への愛と情熱を数百年間少しずつ増していく以外に手はないだろう。焦ってもしかたがない。
本書を読んでいると、私が以前から知っていた天文学者の印象が崩壊することが度々あり、私は天文学者や天文学をほんとに何も知らないと自覚し、ただただ自分の無知を恥じるばかりであった。