田中雅臣「マルチメッセンジャー天文学が捉えた新しい宇宙の姿 宇宙の物質の起源に迫る」講談社、2021年
を読んだ。
天文学の基本的なことを説明した後に、超新星爆発、ガンマ線バースト、中性子性合体、ニュートリノ天文学、重力波天文学を一つずつ丁寧に説明している。最後の1/4でマルチメッセンジャー天文学(SN 1987A、GW170817、Icecube-170922A、TXS 0506+056などの観測)について説明がある。ブルーバックスであるが、最先端の研究について良く書かれている。
最後の1/4で執筆当時の最新のマルチメッセンジャー観測について説明するため、それ以前の3/4は準備という構成になっている。なので、本書を読む前の読者の知識量で本書の印象は変わると思われ、何も知らない読者にはつらいだろう。最初の3/4をある程度知っているが最後の1/4をあまり知らない時期に読むと一番効果的だと思う。かなり詰め込まれている印象があるが、本書は良書だと思う。
著者は天文学者であり、執筆時の肩書は東北大学准教授である。著者が天文学者であることが本書の特徴として色濃く反映されている。超新星爆発の分類の分かりやすい説明や天文学的な量を具体的にオーダー計算して身近な量として読者に認識させる工夫など、本書の隅々に著者の天文学者の優れた専門性がいかんなく発揮されている。当然本書の話題の選び方も非常に天文学者的であり、本書の構成からだけでも学ぶことが多い。理論物理学者が宇宙の一般書を書くとダークマターやダークエネルギーなどの話題にページが割かれるが、本書には銀河のミッシングマスとしてダークマターが一瞬出てくるだけである。
根拠が説明されずに結果だけ書かれている部分もたくさんある(例えば、GW170817の観測から銀河系内での中性子星のイベントレートが1/10^5年なのはどういう類推なのか説明されていない)が、気になるところは自分で勉強して埋めていくしかないのだろう。そういうことが気になりだしたら、一般書ではどうにもならならなくて、天文学の専門書や論文にあたる必要があるだろうから、本書が悪いわけではないと思う。