スティーブン・ホーキング(訳)佐藤勝彦 「ホーキング、未来を語る[普及版]」2004年、アーティストハウス
を読んだ。
原書は2001年に出版されたThe Universe in a Nutshell。
[普及版]とあるのはアーティストハウスから2001年に出版されたものを訂正したからということらしい。
ホーキングは「A Brief History of Time」で読者を最初のほうで撃沈させたことを反省し、
本書ではカラフルな図を異常なほど大量に載せている。
本書の図は大学レベルの教科書に慣れている読者や、前著を最後まで読むと押すことができた読者にとっては、邪魔であると思う。また、読者はホーキングが紡ぎだした言葉にはお金を払ってもよいと思うが本文への集中を奪うだけの誰が書いたかわからない謎のカラフルな絵にはお金を払いたいとは思わないかもしれない。
また、前著で良く練られた素晴らしい構成は多くの脱落者を生んだ要因とされ、本書の構成は散漫で、どこに向かうのかよくわからない構成となっている。もしかするとこの傾向はホーキングの研究分野の当時の動向を反映しているのかもしれない。
本書は7つの章にわかれている。とりあえず図は無視して、章ごとに本文を押さえるとよいと思う。それぞれの章はやはり難しい。
一章は一般相対論、二章は一般相対論、超弦理論など、3章は宇宙論、4章はブラックホール、5章は因果律、6章は生命、7章はブレーン宇宙論が中心の話題である。
ブレーン宇宙論は本書が出版される前の数年間流行っていたらしいが、その後は研究者の興味は別の対象にうつったらしい。それゆえに、今読むと話題の選び方に時代を感じる本である。
翻訳者は佐藤勝彦氏ということになっている。しかし、訳者あとがきによると翻訳の第一稿の佐藤勝彦氏の長男である佐藤剛氏によるものらしい。つまり本書はゴースト翻訳本である。科学界と出版界の闇は深い。