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杉山「数学オリンピック選手を育てた母親たち」を読んだ
杉山由美子(著)数学オリンピック財団(編)「数学オリンピック選手を育てた母親たち」小学館、2005年
を読んだ。
これは数学の本ではなくて、母親の育児に関するかなり特殊な本である。
数学オリンピックでメダルをもらった大島芳樹氏、入江慶氏、清水俊宏氏、栗林司氏、松本雄也氏、長尾健太郎氏、片岡俊基氏、足立潤氏の母親のインタビューと
やはり選手であった伊藤哲史氏と中島さち子氏へのインタビューなどが収められている。
当時の日本社会では母親が子供の家庭教育の最大の功労者のであった場合が多いのかもしれないが、
必ずしも数学教育という面では最大の功労者であったかどうかはわからないので、
母親のインタビューよりもほかにインタビューすべき人がいたのではないかとは思う。
本書のインタビューの対象となった家庭はほぼ全員東京都出身で
同じような有名学校に通って、同じような経験をしている。
インタビューの対象者が異常に偏っているにもかかわらず、一般的な結論を導こうとしている著者は非難されるべきである。
対象者が非常に偏っているのは単純に著者や出版社の怠惰が原因であろうからだ。
私には都内の受験戦争の体験がないので、都内の受験ビジネスは、別世界の話のように感じる。
母親の子供の自慢話を延々と聞かされる本書は読んでいて気持ちのいいものではない。
都内に住んでいて、子供がもし数学に異常な関心を抱いていれば、本書の内容が子育てに生かせるかもしれない
という内容なので、子育てに広く役に立つ本だとは思えない。
数学オリンピックで活躍した子供たちはその後どうなったのであろうか。
子供たちは立派に成長して、各々が進みたい道に進んでいる様である。
特徴としては、かなりの多く割合が東京大学に進学するようである。
また、もともと医者の家系の人も多いようで、医学の研究者や医者として働く者もかなり多い。
国内の数学オリンピックでの受賞者の2割が純粋数学分野の研究者、いわゆる数学者となっている。
高校教諭や予備校の数学講師として数学に関わる人も多くいる。
また、応用数学や理論物理学などの純粋数学周辺の研究者になる人も多くいるし、
天文学、化学、生物学などの分野に進む者もいる。
AI分野や生物物理学など、受賞者が大学生や大学院生の時に流行ったであろう(時代を感じる)分野で活躍している人も多い。
最近の流行だと機械学習であろう。
今の数学オリンピックで活躍している子供たちの数人は、現在の我々は未だ知らない数年後に流行る分野に飛び込むに違いない。
日本で数学に関わる人ならば、中島啓氏の弟子となった長尾健太郎氏のことは知っているかもしれない。子供の自慢話の裏には人知れないご苦労があるのだろうと思いながら読むと本書の価値は計り知れない。本書に長尾健太郎氏の母親によるインタビューが含まれていることは、残された我々にとっても慰めとなろう。
受験ビジネスの中から生まれた本だと思うので
これ以上あれこれ期待すべきではないことも分かっているが、
やはり選手本人のインタビューがもっとあればなあと思う。
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